77人が本棚に入れています
本棚に追加
プレゼントを貰ったというだけで、死にそうになった事も射殺されたシーンも一瞬で吹き飛んだ自分が恐ろしい位だ。
鍵を開けるとドタドタドタと足音が聞こえ、お土産を期待した母が手ぐすねを引いて待ち構えていた。
「おかえり、わっ水ようかんだ!」
スキップしながら冷蔵庫に向かい、定位置に戻るようにソファにゴロンとなると、テレビは時代劇の立ち回りのシーンで、母の目は釘付けになっている。
華麗な刀捌きで敵を斬っていき、最後の一人が倒されると主役にカメラが寄っていく。
「イナリ、始まるよ!」
母が手招きするとタタッと膝の上に乗り「どうだ参ったか!」と主役のセリフと同時に母とイナリも顔を真似ていた。
「あ――っ、それかぁ、ドヤ顔!」
いつも見ている時代劇の主人公のつもりになっていたらしい。
「あのさ、マジで変な事ばっかり教えるの止めて!」
妹が母に怒るとイナリも気に入ってると、いつものように反抗している。
「今日は気晴らしに、安くて美味しい宅配寿司でも頼もうか」
何の気晴らしかよく分からないが、ウチのごちそうと言えば焼肉か回る寿司なので、もしかすると『生還祝い』のつもりかもしれない。
「ヤッター、イナリ今日はお寿司だよ~!」
母の声が部屋中に響き、リーダー達の階に聞こえないかビクビクしながら苦笑いをした。
(完)
最初のコメントを投稿しよう!