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「ふふっ、実は豪華ホテルでのディナーショーのチケットが限定で四枚手に入ったんです」
「――えっ!」
海外アーティスト好きの瑠里が嬉しそうな声を出したが、私は全く興味ないし冷静になれば分かる事だが、ディナーショーという時点で海外の人ではない。
それでも溜め気味で、返事を待っている社長には聞いてあげるしかない。
「因みに誰なんですか?」
希望の返答で満足そうに微笑んだキツネは、勿体つけながらこう言った。
「何と、大物演歌歌手のハッピーです」
聞いた事も見た事もない名前を言われ、ポカンとしたが、さすがに演歌に興味を持つにはあまりにも若い。
私は十八歳で妹は十六歳なので、百歩譲ってアイドルだったにしても、全く知らないジャンルだ。
「若いもんは知らんのかのぅ、木村さん」
年齢の問題じゃなくて世界の問題だと思いますと、サラリと答えた木村さんに意味が分からず、首を傾げ立ち去ろうとしていた。
「犬の世界ではかなり有名なんですよ、どう?明日も偶然二人共休みだし、一生に一度あるかないかの大チャンスです」
「結構です、勉強もあるんで……」
「ちょっと待て!ワシと木村さんだけじゃその、男女関係で変な噂が流れても困るじゃろ?そういうのクリーンなイメージだから」
『誰も気にするかっ!』
老体二人のプライベートに興味がある人がいるとも思えないが、こちらには関係ないし巻き込まれる筋合いもない。
妹もどうでも良さそうな顔丸出しで、親族の誰か誘えばどうとか、その歌手知らないので行っても失礼だと断りを入れていた。
失礼という言葉を使うところがさすが瑠里で、あたかも行く資格がないと謙遜してるように聞こえる。
「それが木村さん以外、誰もハッピーの良さが分かる奴がおらんで、だからここは黙ってついて来て欲しい」
社長のイメージの為に巻き添えになるのは御免だが、行くのが無理的な状況を強引に作らなければ帰して貰えそうにない。
「その、着て行く服もありませんし……」
「それは心配しなくていいわよ、可愛いのチョイスして準備するから」
無駄にじゃんけんまでして、行きたくないアピールをしていたが全く効果はなく、逆に社長から百合さんはパスタ好きでしょと切り出してきた。
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