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「何か慣れてる……」
ディナーショーの時から思っていたが、あの育ちの良さは誰譲りなのか疑問に思う所だ。
秋月さんの犬は大きいけどイナリとは喧嘩にならず、むしろ気を使うように距離をあけて静かにしている。
「姉さんもこっちに浸かれば?」
パーカーを壁に引っかけ首のタオルを頭に乗せてる妹は、他に入っているオジサンとも違和感を感じなかった。
かけ湯をしてからそっと足を忍ばせると、程良い温かさでいつまでも浸かっていられそうだ。
「温泉って本当に極楽だね、イナリ見て!目を閉じて石に腰かけてオヤジみたいに見える」
「しかもあれ、若干股開いてない?ドラム缶見てるようで目を伏せたくなる」
リラックスしてるのは分かるが、ウチの母の仕草の真似は恥ずかしいし止めて欲しい。
「ん?俺あんなのしつけてないんだけど、あの股開いてるのなんだろ?」
滋さんにはイナリを五日預けた時があり、山金犬で凶暴というのもあるが、キツネや犬を任務に連れて行く人もいるのでしつけがされている。
本当なら田村さんに頼みたい所だったが、いずれにしても金刺繍というより、立花の一族には色々出来る器用な人が多いらしい。
「そう言えば、あの続き教えてよ」
隣に来た滋さんは倒れるまでの事をしつこく聞いてくるので、面倒だがこのままだと枕元までついて来そうなので、手短に話す事にした。
凱が来ていてお守りを取り込んだ事と、犬螺眼と言われたと伝えたが、あえてロイとプーを始末した事は口に出さなかった。
「ホテルにも来たに違いないし、あの殺しはあちら系のやり方に酷似してた。ちょっと調べた方が良さそうだな、百合ちゃんの身体がおかしな事になってたら大変だ」
一気に立ち上がったので水が飛び散ったが、気にせず出て行く彼を見ながら妹のタオルを使って顔を拭った。
秋月さんがそっと近づくと『大丈夫、おかしなことにはなってない』とコッソリ教えてくれ、続きが聞きたくて小声で質問をした。
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