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「も、もう大丈夫みたいですので、お帰り頂いて構いませんよ?」
「そうですね、この景色を見るとちょっと散歩したくなりますよね。月を見ながら海辺を歩くのもいいかもしれません」
それは私も一緒ですかと聞くのが怖くて黙ったままでいると、フワッとマントが広がり降りて来る凱を見て、どうやらそうらしいと確信した。
「ワンパスタも美味しいですが、この山菜むすびも美味しいんですよ」
渡された包みを開けると懐かしい匂いがして思わずスプレーを掛け、手を合わせて一口頬張ると、お婆ちゃんがよく作ってくれた山菜むすびに味が似ている。
炊き込みご飯を握っただけだが、摘みたての物を煮物にしたり味噌汁やご飯に混ぜてくれたり、特に天ぷらが好きでリクエストしていた。
「美味しいです、これ天ぷらとかお浸しにしてもいいですよね」
「よく知ってますね、お口に合って何よりです」
母もこういうの作るんでと、隣に座る凱を見ないようにおむすびを渡したが、暗闇で金色の目と裂けた口を見ると恐怖で食欲も失せそうな気がしたから。
「ちょっと下に降りましょうか」
ギクッとしたが大体の予想はつくのが、恐らく一気に下まで飛び降りるつもりに違いないが、手を出されたのでビクビクしながら指を伸ばそうとした。
「ウチの女性をデートに誘うなら、私の許可を取って貰えますか?」
と、キツネ……いや社長が恰好をつけて少し後ろから声を掛けてきた。
「デート?ただお話をしてただけですよ」
「それでも私の大切なはん……仲間ですのでね」
般若と言いかけただろとジッと見ると凱がヒラリとジャンプし、子犬を宜しくお願いしますと夜の空に消えて行った……ように見えた。
「社長、般若って言いかけましたよね?それにキャバクラに行ったんじゃなかったんですか?」
「行く訳ないじゃん!キャバクラ?何それ」
白々しく惚けるキツネに冷めた眼差しを送ったが、心配して来てくれた事を考えると何だかやっぱり憎めない。
「困りましたね、百合さんは色んな人にモテるみたいで目が離せんし『般若顔女子』って流行っとるんかの?」
「流行る訳ないだろ!怖くてモテねーだろが!」
「馬鹿は相手にしなくていいから、まあお掛けになって下さい」
キレ気味に社長を睨んでいると、照ちゃんがシレッと私の肩を押して来た。
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