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第1章 犯人は金色の招き猫
水上雛子は銀行のATM前で深いため息を吐いた。
「また・・・。あそこから・・・」
あそことは所長の父親が経営している大手銀行からだ。
所長の探玄は大手銀行頭取の息子で、有名な財閥の家系に生まれた大金持ちである。
また、所長が運営資金が足りないからと父親の銀行頭取に融資を頼み込んだのだろう。その代わり、儲けにもならない依頼を受けるという条件付で・・・。
「よぉ・・・。ひなちゃん、まだ?」
ATM後ろの待合席に座って退屈にしている男、モジャ毛頭の偵川は雛子の通帳記入が終わるのをずっと待っていた。
「たくっ・・・」
雛子は舌打ちをしてから偵川に近づいていく。
「軍資金」と偵川は笑顔で右手を開いて雛子に差し出す。雛子はその手をパシッとはたくと、「いい加減、儲かる仕事をしてきてください!」と言って、たった今下ろしたお金を偵川に渡した。
「俺に言うなよ・・・。探玄がまともな依頼を受けないから悪いんだ。俺は、若い女性の素性調査でも良いんだよ。毎回毎回、親父からの事件捜査なんか引き受けるからこうなるんで・・・」
「たくっ・・・。で、今日はこれからどちらへ?」と雛子が現金の入った封筒を仕舞いながら聞く。
「あっ・・・。今日?今日はね・・・」と言葉を濁した時、偶然にも偵川の携帯が鳴った。
「あっ、電話だ!ひなちゃん、とりあえず行って来るね・・・。はいはい・・・、もしもし」と話しながら偵川は銀行から出て行った。雛子は呆れ顔で窓口カウンターへ向かうと、幾つかの支払いと、自分の今月の給料分を口座に振り込んだ。
「ナイスタイミングだ、探玄」と偵川は電話口で笑いながら話す。
『また、ひなちゃんが愚図ったか?』
「あぁ・・・。で、今どこにいるんだ?」
『事件のあった町田だ・・・。駅から歩いて数分の現場・・・』
「そこに俺は何で行くんだ?」
『会社の車で来いよ・・・。調査道具が積んであるんだから・・・』
「なるほど・・・。で、お前はまた、警察の車に便乗した訳だ・・・」
『酷い言い掛かりだな・・・。便乗じゃない。同乗させてくれたんだ』と探玄が言うと、その言葉を聴いていた蓮澄は呆れ顔で睨みつけた。
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