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  円形のカバーの中で光る蛍光灯に照らされただだっ広い部屋の中には、アルコールと薬品の臭いが充満していた。   テーブルに散乱している用紙の一番上には、《理解と信頼関係がもたらす人間の心理的変化に関する研究》と書かれた資料が寂し気に微かな存在感を示している。  更に部屋の奥に進むと、白衣に身を包んだ佐伯寧恩(さえきねおん)が、何かと何かの液体を試験管からビーカーの中へ移し、混ぜていた。 「それ、なに」 「シアン化ナトリウム」 「シアン化? なにそれ」 「毒物及び劇物取締法で毒物に指定されているもの」  彼女は私の方を振り返ると、液体の残りが入った試験管を自分の顔の辺りに掲げた。
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