2375人が本棚に入れています
本棚に追加
「久呂武さん、今日はもう帰ります。またきますね」
「ええ。いつでも待っていますよ」
久呂武さんは私に優しく微笑んだ。洋は、面白く無さそうにしていたが、それ以上はなにも言わなかった。
私は、払うと言ってくれた洋の言葉を断り、会計を済ますと、店の外に出てからまたしっかりと手を握った。
外ははらはらと雪が舞い、広い通りに出たところでは、ほんの少し積もった雪に、街灯の光が反射していてきれいだった。
後ろを振り返れば、やはり路地裏は真っ暗で、久呂武さんの店からほんのり漏れるオレンジの光だけが目印だった。
洋の車も雪をかぶり、エンジンを回してワイパーを動かせば、少し固まった雪がシャリシャリと音をたてた。
「まさか久呂武さんのところにいるなんて思わなかった」
「うん。急に行きたくなったの。心配させてごめんね。でも、やっぱり色々決めたり、解決した始まりの場所だから、大切にしたいの」
「そう……」
「洋とは一緒に先に進んで行かなきゃいけないでしょ? 私は洋とは違ってそんなに器用じゃないから、新しいことに対して簡単に対応できないの」
「そんなの、俺が支えるのに……」
「ううん、洋にはいつも支えてもらってるよ。これ以上ないくらい。だから、時々は立ち止まって色々考えていきたいの」
私は、洋とは対等の立場でありたいと思う。好きだし大切だからこそ、私だって洋の支えになりたい。そのためには、洋にだけ甘えてばかりなのはだめだと気付く。自分の意見もしっかり伝えていくことが対等な関係なのだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!