最終章

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久呂武さんの店から洋の家に着くと、洋が軽い食事を作ってくれ、美味しくいただいた。 私は、先にソファでくつろぎ、洋が洗い物を済ませると、その黒いソファに横並びに座り静かな空間の中で雑談をした。 「ねぇ、洋」 「ん?」 「私、洋に言ってなかったことがあるの」 「……なに?」 看護の専門学校を受けたこと。いつかは言わなければいけないことでもあるし、専門学校の試験は終わったため、洋に伝えてみようと思った。 洋は、隠し事をされていたことに驚いたのか、神妙な面持ちで私を見つめる。彼は、私が何を言おうとしているとおもっているのだろうか。 「あのね、私今日は試験を受けてきたの」 「試験?……なんの? 昨日と今日はゆっくり過ごす予定だったんじゃなかったっけ?」 「昨日もね、本当は試験だったの」 「ん? だから、なんの? 大学はまだ先だよね?」 「うん。東大は来月。あのね、専門学校」 「専門?」 意外だったのか、洋は大きな目を更に大きくさせた。彼は腰を上げて私に向き合うように座り直す。しっかりと洋に見つめられて、私も言葉が詰まりそうになる。
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