最終章

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「やっぱり、私には無理なのかな……」 「無理ってことはないけど……楽じゃないよ?」 「うん……」 「全然綺麗な仕事じゃないし、何なら人も死ぬことだってあるし……」 「うん……」 「冷たい言い方するけど、それも仕事だって割りきらなきゃいけないこともたくさんあるし」 「うん……」 洋は、蘭さんと同じことを言う。当然だ。2人とも医師であって、たくさんの命を救っているし、救えなかった経験だってきっとある。 「蘭に相談してたくらいだから、色々聞いてると思うし、わかってて言ってるならいいけど……俺は正直、凛には無理とかじゃなくて何なら働かなくてもいいんじゃないかって思ってる」 「え……?」 「凛は家柄もしっかりしてるし、このままちゃんと勉強を続けて試験に望めば東大だって受かると思う。その学歴があれば、仮に働くとしても事務だとか、もっと融通の利く仕事に就くことだってできると思う。わざわざ夜勤もあって体力的にも精神的にも辛い仕事を選ぶ必要がないと思うよ」 「うん……でも……」 「……楽をしたいわけじゃないんだね」 「うん……」 「じゃあ、学校に入ってから勉強し直しだね。難しいよ、医学は」 そう言って笑った洋の顔はとても優しかった。認めてもらえた安堵と嬉しさとで涙が出そうになる。
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