最終章

108/117
前へ
/869ページ
次へ
「ごめんね……せっかく勉強教えてくれたのに」 「何で謝るの? 勉強する習慣をつけるための練習だと思えばいいじゃん。専門学校を下に見る訳じゃないけど、中々いないと思うよ。東大蹴って専門に進学するやつなんて」 洋はそう言ってクスクスと笑った。私には無理だって言われなかったことが嬉しかった。私も社会に出て働くことの権利を手に入れられたような気がした。国民の義務として労働の義務はあるのだけれど、そういうんじゃないのよ。なんていうか……居場所みたいなもの。 「でも、受かるかどうかはまだ……」 「きっと受かるよ。ちゃんと学校に入りたいって伝えてきたんでしょ?」 「それはもちろん!」 「じゃあ、大丈夫。看護学校入ったら、俺と仲間だね。その時は、歓迎するよ。医療チームの一員として」 そう言って私の頭にぽんと手が置かれた。その瞬間、白衣姿の洋と重なって彼氏としてではなく、医師としての洋が見えた気がした。 「ありがとう……嬉しい」 「俺も、医療の事について理解が深まるのは嬉しいかな。あ……でもそうなると、就職ってどこになるの?」 「蘭さんが講義に行ってる専門学校だから、そこの実習病院になると思うけど……」 何かを思い付いたかのように、就職先を気にする洋が、何だかそわそわしていてこちらも落ち着かない。
/869ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2380人が本棚に入れています
本棚に追加