ナヤミゴト。

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 那覇市内にある老舗レストラン八神バー。 八神バーの開店はまだ江戸の残り香が珍しくなかった明治時代の事であるから、平成の世から見れば確かに老舗だと言えない事もない。 因みに八神バーの偉大なる手本となった浅草神谷バーが開店したのは、明治13年の事であった。 店舗は開業以来の建物をほぼそのまま使用し続けており、それを証言するかの如く建物のあちこちに弾痕が穿かれている。 八神バーは言わば、鉄の暴風を耐えた沖縄戦のもの言わぬ証人。 無数の弾痕を敢えてそのまま残しているのは、歴代オーナーの金科玉条なのである。 沖縄戦を忘れるな。 鉄の暴風を忘れるな。 反戦を訴える看板をわざわざ掲げなくとも、八神バーの店舗が無言で強く訴えているのだ。  創業当時の姿をほぼそのまま現在に伝える八神バー。 その頑丈さ故に、沖縄占領時ほんの少しだけ米軍専用のバーとして使われていた事がある。 我が物顔で沖縄を闊歩していた米軍が、ほんの少し居座っただけで八神バーを手放した背景には、勿論理由というものがあった。
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