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カズトの話に拠れば、悟じいさんこと及川悟は痴呆症が一段と進み、益々高級老人ホームめんそうれハイツ職員を困らせ尚且つ悩ませているらしい。
夕方になる度に
「帰りたい!
帰りたい!
符礼亜村の家に帰りたい!」
…と大騒ぎしては、ホームを飛び出し興奮しながらホーム近辺を徘徊しているとのことであった。
しかも毎日のように、三度に一度は素っ裸若しくは下半身裸の格好で…
「…というような訳で、外泊を勧められたって訳なんだよ陸攻。
でもな、及川さん所もウチもじいさんを見る人がいないのは知ってるだろう?
その点お前の所なら自営業だから…」
「簀巻きにして重営倉に入れておけばいいです」
珍しく低姿勢なカズトをじとぉっ…と一瞥しつつ、シレッと彼の言葉を遮り尚且つ斬り捨てるくるみ。
つまりカズトは、陸攻夫妻に悟の外泊先とその間の介護とを押し付ける腹積もりなのだ。
それをすぐさま見抜いたが故に、甥の大吉を除くカズト一家そして及川悟にぶつけるくるみの思いは、普段にも増して手荒く冷たい。
その理由は言うまでもないだろう。
くるみに言わせれば、散々一式翁と亭主を苦しめておきながら何を虫のいい事を…
…という訳なのだ。
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