冷たい熱

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「おはよう、綾瀬」  長田が駆け寄ってきた。ポンと叩かれた肩が、じんわりと熱い。 「昨日は大丈夫だったか? 瀬戸先生が見てくれるって言ってたから先に帰っちゃったけど。ごめんね」  瀬戸の名前を口にする長田の顔は、ほんのり赤くなる。好きな人の名前を言うのは嬉しいのだろう。 「やっぱり、先生っていいよね」 「うん、もう大丈夫だから。急ごっ」  綾瀬は、小走りに校門へかけて行った。  ――ごめん、俺には長田を好きになる資格なんてない。  長田の顔を見ることが出来ない。長田の好きな人に抱かれた事を思い出すと、体の中から熱が溢れだす。長田が好きなのに、何故か瀬戸の姿を、熱を、肌を思い出す自分が許せなかった。  気が付くと保健室の前にいた。罪深さと嵌められた快楽に捕らわれた感情の吐き出す場所を求めてきてしまった。 「おや、綾瀬。具合悪そうだね」  瀬戸は優しい甘い顔で中に入れると、カチャリと鍵を掛ける。 「心配しないで。ちゃんと僕が見てあげるから」  一体この先どうなるんだろう。人形のようになってしまえば、後ろめたい気持ちもいつかなくなるのだろうか。  綾瀬は止まらない熱を冷ます為だけに、先生の手厚い治療を受け続ける。  ――先生、あなたがいなくなれば熱が冷めるかもしれません。どうか、はやく直してください。    〈 完 〉
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