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兄の柊はこの半年程、亜季の前から行方をくらましていた。
突然、久しぶりに帰った柊の第一声はこう。
「亜季、今から三十分後に僕の部屋に来て。見せたいものがある」
亜季はそう言われて、きっかり三十分後に柊の部屋を訪ねた。
ノックをしても呼び掛けても返事がない。
心配になってドアを開けると、金色に輝く二つの瞳が、じっとこちらを見ていた。
『亜季……』
「え?」
銀狼の口が動いた様子はない。
直接頭に響いてくるのは、間違いなく兄である柊の声。
『もう君と一緒には居られない。だから最後にこの姿を見せておこうと思った。本当は見られたくなかった、この異形の姿を』
「どういう事? ねえ、お兄ちゃん」
『僕は君の兄じゃない。君は普通の人間で、僕は人の手によって造られた……モンスターだ』
「なに……一体何を言っているの?」
造られたモンスター?
目の前にいるこの銀狼が……自分の兄が……
この突然の告白を、亜季は到底受け止められそうになかった。
『ごめんよ亜季。父さんと母さんは僕のせいで殺されたんだ……』
「え!? 殺されたって……ど、どういう事?」
今から半年前、二人の両親は突然に逝ってしまった。
原因は、車のハンドルミスによる不慮の事故。
そういう事で片付けられたのだが――
「違う、単なる事故である訳がない……」葬儀の最中、柊はポツリとそう呟いていた。
『二人は殺された。僕を……手離さなかったばかりに』
金色の瞳が陰を帯びる。その瞳には微かに涙が滲んでいた。
『彼らは言ってくれた。血の繋がりも、姿形も関係ない。お前は自分達の本当の息子だと。息子を売り渡す親などいないと。鉄のような固い意志で僕を守ろうとしてくれた』
ああ、そうだ。自分達の両親はそういう人達なのだ。
亜季の目からも一筋の涙が伝った。
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