15人が本棚に入れています
本棚に追加
『けれど、彼らの優しさに甘えてしまったが為に、僕は君から大切な両親を奪ってしまった。せめて君だけは巻き込むまいと思って、君とは距離を置いていたのに……なのに奴等は、君を人質に僕へ脅しを掛けてきた』
感情の高ぶりからか、ウウウと狼からも低い呻き声が聞こえてきた。
『もう我慢の限界だった。だから……僕に関わる忌むべき総てを根絶やしにしてやったんだ』
亜季には訳が分からなかった。
根絶やし……一体何を……?
その時ふと、亜季の脳裏に浮かんだ事件があった。
「まさか、この間のあのニュース……? 嘘、そんな……」
先日、とある猟奇的な事件が世間を賑わせた。
某生物学研究所が何者かに襲われ 、データや設備は全て破壊されていた。
そして、所員は一人残らず凄惨な死を遂げていたのである。
五体満足に残されているものは、まだマシな方だったという。
その殺害方法が奇妙だった。
人間業とは思えない。まるで、猛獣に噛み砕かれ、引き裂かれたかのような――
「あ、あれは……柊が……?」
『ああそうだ。あの時の僕は、人としての理性を完全に失っていた。ただの獣……いや、それ以下だった。だが、そのモンスターを造り出したのは奴等だ。奴等は、自分達の造り出した化け物によって返り討ちにあった。ただ、それだけの事だ』
そう言いながら、銀狼は亜季から目線を逸らした。
『もう君に危害が加えられる事はない。だから、これからは幸せに生きて欲しい。父さんや母さん、そして僕の分も』
そしてそのまま踵を返すと、窓の方へと歩き出した。
「ま、待って! 何処に行くの?」
『それは僕にも分からない。人に戻るつもりはない。かと言って獣にもなりきれはしないだろう。ただ、この命を捨てる訳にはいかない。彼らが守り抜いてくれた、この命だけは』
「やだ、柊! 行かないでよ! 一人にしないで!」
亜季は柊を懸命に引き止めようとした。
最初のコメントを投稿しよう!