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訃報です。俳優の吉野彦之助さんが今朝発生した高速道路での玉突き事故に遭っていたことが分かりました。享年81でした。ここで吉野さんの経歴を紹介します。
吉野さんは20歳で映画「硬派」で主演を務め、一躍有名になりました。その後も数々のドラマや映画に出演。国民的ドラマ「頑固者」では主人公の、厳しくも優しい父親を熱演。また、「江戸いくさ」では徳川家康を演じました。演技に対する厳しい姿勢から愛称「鬼の吉野」と言われるほど、演技一筋だった吉野さん。後輩への演技指導も尽力していました。ご冥福をお祈りいたします。
目を開けると暗闇の中に居た。
ここはどこだ。そう吉野は思った。
「おや吉野さん。気づきましたかな?」
どこからか60代ほどの男の声がした。声のする方へじっと目を凝らすと段々と辺りが見えてきた。と、いってもそれはどこまでも続く暗闇に男1人女2人が居ただけだった。
「ここは……」
「どうやらあの世の途中みたいです」白髪頭の男は答えた。
「あの世? 私は死んだのかね?」
「覚えていないんですか? 高速道路で渋滞していたら、後ろからトラックがドカーンと突っ込んできて、エンジンが漏れて大爆発」
男は握った手の平を上に向けて開いた。「爆発」というジェスチャーらしい。
「うん……そういえば最後に覚えているのは車に乗っている時、後ろから衝撃が来た時だったような」
「でしょう」
「ここは天国じゃないのかね?」
「言ったでしょう。ここは途中だって」
そう言って男は吉野の後ろを指指した。
「どうやらあっちが天国のようで」
指さされた方を見ると、ぼんやりと、しかし確かに明かりがあった。
「じゃあ、皆さん天国に向かいましょうよ」
「それなんですがね」
男は吉野に、にじり寄った。
「せっかくだからってみんなで話していたんですよ」
「せっかくって何がです?」
「いやね、成仏する前に生前のことをみんなで話していたんですよ」
「ほう」
「ほら、よく言うじゃありません? 『墓場までもっていく秘密』って。それを話していたんですよ」50代ほどのショートヘアの女が言った。
「それが意外に盛り上がっちゃって。……死んでから盛り上がるって言うのも変ですけどね」40代くらいの、髪の長い女が少し笑いながら言った。その笑いの中には悲しみも含まれていたのかもしれないと吉野は思った。
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