152人が本棚に入れています
本棚に追加
「蓮登、何かいいことあった?」
そう聞かれるのは何度目だろうか。
蓮登はゆっくり瞳を細めて、口角を程よく引き上げると目の前の客である彼女を見つめる。
「もちろん、今貴女とここでこうして出会えているからですよ、静香様」
「そんなこといって、アフターに誘うとすぐに拒絶する癖に」
一瞬うっとりしかけた静香は我に返って楽しそうに笑う。茶色く長い髪を、指輪で飾った右手で弄びながら。
都内で宝石店を開いている静香には家庭がある。
けれども、主人は仕事で忙しくいつも飛び回っているのだ。その淋しさを埋めるために、時間を見つけてはここ、Honey Beatへと足を運んでいた。
「だって、今の関係を少しでも長く楽しみたいじゃないですか。
身体だけの関係になったら早々に飽きちゃうかもしれませんよ?」
「あっれ、蓮登って意外とそっちの方ダメなワケ?
まさか……ね?」
「ご想像にお任せします」
蓮登は言うと、静香の手に恭しく唇を落とした。
最初のコメントを投稿しよう!