152人が本棚に入れています
本棚に追加
「素敵な宝石ですね」
蓮登は、静香の手を取ったまま大きなエメラルドに目を落として言う。
「うふふ。傷がつくからもったいないって言う人もいるけど、やっぱり宝石はこうやって使ってあげないとだめよね」
「大切なものは箱に閉じ込めてただただ眺めておきたいと言う気持ち、よーくわかりますよ」
「あら、蓮登も遠くから眺めておきたいと思うの?
だめだめ。宝石は、身に着けてこそ輝くのよ」
「でも、傷がついたら困るじゃないですか」
「そうならないように、仕草や行動が丁寧で洗練されたものになるわけだし――。
それに、万が一傷がついても自分がつけた傷なら諦めがつくでしょ?」
「つきますか?
ああ、もったいなかった、出さずに飾っておけば良かったって思いません?」
「で、そんなに大切にとっておいた綺麗なままの宝石を私の死後、他の誰かが無遠慮に使うってこと?
そんなの嫌よ。私が私の権限で傷をつけるの。大事に、大事にね」
「――なるほど。
――勉強になります」
大事に傷をつける、なんて甘美な言葉だろうと思いながら、蓮登は頷いた。
「蓮登は何もつけてなくても輝いてるもんね。
なんて言ってる場合じゃないか。良かったら、今度プレゼントするわよ。
次のお誕生日あたりに」
「楽しみにしています、静香様」
果てなき会話をここそこで重ねながら、Honey Beatの夜は、今宵もいつもの通り更けていった。
最初のコメントを投稿しよう!