<8月> 男前のまっくろ

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「次の日曜は休むから、間違ってくるなよ」  村崎はぐったりとイスにもたれかかりながら言った。気持ちはわかる、今日は忙しかった。 「お前、よくこんなの一人でこなしてるな」 「一人の時はそれが当たり前だから耐えられたけど、お前が来るようになってから正直堪える」 「教える手間が増えるからだろ」 「いや、違うって。そろそろ1年以上になるだろ?ここにくるようになって」  武本が里崎とかいう女とつきあう少し前から、俺は村崎の所に来るようになった。週末を持て余していたし、どうせ武本も3ケ月くらいしかもたないだろうから暇つぶしで始めた。それがすっかり方向性が変わってしまった――たった1年で。 「なんで見ず知らずの人間の腹具合を俺が面倒みてんだ!うわああ!!!って叫びたくなるのよ」 「それが仕事だろうが」 「まあな、それで一人でもくもくとやってると暗~~くなってくるわけ」 「そんなもんか?」 「そんなもんだよ。オヤジが海外の友達の所にトンだ気持ちがわかるわ」 「逃亡したいのかよ」 「それはない、俺楽しいもん、お前とやってると。一人で考えてたことに答えが返ってくるし、退屈しないし。思っていたより飯塚は腰が低いしマメだし、飲み込み早いし」 「気持ち悪いって、何もでないぞ」  村崎はきちんと座り直し、真面目な顔で言った。 「前に言ったことあるだろう?やりたいことがあるってさ。でも今の状況だと日々に追われてそんな時間もないし考える余力もない。わかるんだ、このままだとジリヒンだってこと。だから飯塚、お前早く会社辞めてここに来てくれないかな」
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