<8月> 男前のまっくろ

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「その話なんだが……」 「うん」 「武本にばれた」 「なにが?」 「俺がこっちに来たいって思ってること」 「まじで?お前会社辞める気になったってこと?」 「……まあ、そういうことだな」  村崎はまたズブズブとイスにもたれる。 「ああ、なんかひとつ肩の荷が降りたかんじ」 「ただ、今はまずい。抜けられる状況じゃないんだ」 「いつだったら?」 「最低半年、長くても8ケ月待ってくれ」 「ながっ!!」 「リーマンの事情を察しろよ」 「暗黒ダークサイドの12月……また俺一人で乗り切らないといけないってことだろ?」 「12月はリーマンにとっても暗黒だ」 「喜んだ後のお預け?今から鬱にはいりそうだわ~俺」 「今まで乗り切ったんだろ?あと1回頑張ろうぜ」 「あと、バイトがいない」 「いるだろう、太郎が」 「時間の問題だ。アイツは実家に帰るんだよ」 「まだ在学中だろう?」 「就活したけど全然ダメでさ、あんだけ嫌がってたけど地元に帰るらしい。オヤジさんのコネ就職なるエサに見事、陥落」 「卒業するまで時間があるじゃないか」 「先だ、先だと思ってたらダメなのよ。募集広告の金だってバカにならないしさあ、新メニューや将来のことを考えたいと思っても、結局こういうことに時間を取られるわけだよ。飯塚にまで御預けくらって、俺可哀想だ!あああ!可哀想だ!」  どんな仕事をしても、結局「人」の問題からは解放されないようだ。そんなことを考えていた俺に向かって村崎が言いやがった。 「彼女にしてやるから、バイトしないか?とかなんとかいって、かわいこちゃんをゲットしてこい! 命令だ。それができなきゃ、会社放棄して俺のとこにこい!」  付き合うのがバカくさくなって、俺は帰り支度を始めることにした。
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