<8月> 男前のまっくろ

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 久しぶりに大丸でもいくか。 贅沢に寿司でもつまんでやろう。そんなことを思いながら札幌駅に向かって歩き出す。  地下の連絡通路を歩いてもいいのが、たまには外を歩こう。ビルの谷間に埋もれたように建っている時計台の前を通ることにした。俺はこの期待を裏切る建物が好きだ。 建物は勿論、そこに集まる観光客を見るのがいい。たいてい「えええ?これが?」といった顔をしている。写真や絵ハガキでみるのと実際の時計台は違いすぎる。  それでもベストポジションの小さな台に立ち写真を撮る姿は見ていて面白い。時計台をみるなら、大倉山のジャンプ台のほうを断然おすすめする。  バスが一台止まった。  このバスは武本の田舎と札幌を結ぶ高速バスだ。けっこうな乗客が乗っている。信号が変わったのを見て、バスの前の横断歩道を渡った。 「理さん!タケさんは横暴すぎますって。あげく触りすぎです!」 「あははは、よし兄は正明が好きなんだよ、いいじゃないか。気に入られて」  とっさに振り向いた俺はこちらに背をむけて大通り方面に歩いている二人の姿を認めた。 一人は武本だ……横にいるのは誰だ?友達か?いや、友達はサトルさんなんて呼ばない。それに二人は武本の田舎から一緒にバスに乗ってきたようだ。半年前、当時つきあっていた彼女に一緒に行きたいと言われて武本は怒り、別れるきっかけになった。  横にいる男は……いいってことなのか?  どすぐろいものが俺の体を蝕み始める。  俺の視線が強すぎたのか、武本の隣の男が振り返り、俺を認めた。一瞬大きな目を見開いたが、それだけだった。そのまま武本の横顔に視線をもどし、二人は俺から遠ざかっていく。  そいつはいったい誰なんだ?武本、そいつは何者だ……。
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