<9月> 正明君と男前

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 背筋が凍るとは、このことだ。  人生始まって以来、あんな思いをしたのは初めてだった。理さんと「タケさん訪問+散髪」を終えて札幌に戻りバスを降りてすぐ。背中に異様な視線を感じて思わず振り返ったら、視線だけで人が殺せそうな顔をした飯塚さんと目があった。  怖い!その恐怖たるや!  無理やり飯塚さんから顔を引きはがし、向き合った理さんは天使さんのように穏やかだった。そのあと背筋にビシビシ殺気を感じながら歩き続けた僕を褒めてほしい。あんな顔して僕を睨むより、先にすることあるよね?理さんを捕まえておけってこと、それは簡単なことなのに。  バイト先では、飯塚さんが来そうな時間帯はレジにいないように心掛け、ビクビクしながら過ごしていた。今日もやり過ごせるはずだったのに、タイミングが悪かった、ハア。  塾帰りの学生軍団のご来店と品出しが重なり、やむなくレジに立つはめになった。さっさと終わらせてしまおうと心に決めたとき、いらっしゃいました!飯塚さんが。  下をむいて誤魔化そう、もうそれぐらいしか自衛手段が浮かばない僕は、愛想のカケラもない接客で乗り切ろうとした。 「下ばっかり見てても、今更遅いぞ。まさかこんな近くにいたとはな」 「……」 「仕事あがりは何時?」  運が悪いとはこのこと、厄介事は重なるものだ。 「あと……30分だったりします」 「それじゃ、そのくらいにまた来るから。逃げんなよ?」  恐る恐る顔をあげると、半笑いの飯塚さんが僕を見下ろしていた。 逆らえるはずがない! 「……ワカリマシタ」  僕の抵抗は、棒読みで返事すること以外になかった。
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