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「結局おごるはめになったな」
「いいじゃないか、あいつらそれぞれ1000円は払ったんだし、クーポンで安くなったし」
二人と別れた後、武本とバーで飲みなおすことにした。
「別に俺いなくてよかったんじゃないか?今日」
「なんで?」
「なんでって、石川も渡辺も武本にブンブン尻尾ふってただろ。俺だけ蚊帳の外?な有様だったじゃないか」
「そんなことないって。存在自体に意味があるんだよ、お前の場合」
「それ意味わかんないって」
いい年をして拗ねる男も恰好が悪いので、このくらいにしておこう。
「それで、お前のビジョンはどうなった?」
いきなり聞かれた。俺は会社に対しても、今の仕事に何も持っていない。でもそれを言ってしまうと、自分の仕事もこなして新人に教え込んでいる武本に失礼だ。
「変な顔してるぞ、飯塚」
「……」
「決めたんだろ?」
「え?」
「好きなこと……そっちやることに決めたんだろ?」
……何を言えっていうんだ、俺に。
「正直に言うと同じ仕事ができなくなるの、寂しいなと思ったんだ。ちっせ~よな、俺」
「そんなことない。俺だって考えた……からな」
「そっ……か。決めたんなら毎週俺にかまっている時間はないはずだぞ、飯塚」
「え?」
「知り合いの店に顔だして手伝いの真似事だって労働だ。平日は仕事もしているから無理がかからないはずがない。休むなり、顔だす時間をちゃんと決めたほうがいい」
確かにそれはもっともな話だった。新しいことを始めると失うものがでてくる。村崎の店にいくようになって、俺の休日は確実に減った。本気で世話になるつもりなら、村崎にだって話をしなくてはならないし、そうなると動き方も変わってくる。
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