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「俺、散髪をかねて実家に月1で帰ってるし、料理らしきものを前より作れるようになった。俺の心配はほどほどでいいよ。お前のメシが食えないのは残念だから、忙しくない時の金曜の夜……そうだな、月イチで手を打ってやる」
「俺の仕事の仕方でわかったのか?手抜きしたつもりはないんだが」
「それはないな。会社の人間は誰もわかってないと思う」
「じゃあ、なんでお前はわかったんだ?」
「……そうだな。俺も腹くくったから見えたのかもな。さ、帰りますか」
武本のそれ以上聞くなというサインをここでも尊重した俺は言葉を返さなかった。
まだ地下鉄が動いている時間だったので二人でのんびり駅に向かう。
「お前家まで歩く?乗り換えるの面倒だから大通りまでいってもいいか?」
「いいよ」
俺はススキノから歩いて帰ることもできるが電車に乗るなら大通りのほうが都合がいい。
それになんだか武本と離れるのが嫌だった。
「いい季節だな」
日が落ちれば肌寒い日もあるが、桜が散って1ケ月。これからいい季節がやってくる。武本は『年中6月だったらいいのにな』と必ず言う――1年で1番穏やかな季節。
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