<6月> 男前、腹を括る

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「年度末までひっぱれるか?」  何を?と聞くまでもない。俺の在職期間の話だ。 「俺の要望は優先されないだろうな。会社の都合もあるだろうし」 「上の都合はどうしようもないけど現場なら何とかできる。石川と渡辺に俺、それと課長を巻き込めば、お前が抜けても大丈夫なように整えるよ」 「え……?」 「最低半年、長くて8ケ月程度でどうにかする」 「お前、なに言って……」  着いてしまった地下鉄駅の入り口脇で俺達は立ち止まった。 「さっきあいつらにエラそうなこと言っただろ、ビジョンのこと」 「今はそんな話じゃなくて」 「いや、そんな話なんだ。俺のビジョンはな……」  武本は言葉を濁して俺の腕をポンポンと叩いた。 「俺のビジョンは、お前のスーパーサブだ」 「お前なに言って……」 「石川達には悪いが、小さいうえにエライ個人的なビジョンだよな。お前といると楽しいから。だからどんな場所でも飯塚のサブが俺の存在意義なんだ。だからな……飯塚」   武本はまっすぐ俺を見る。 「こっちは俺がなんとかしてやるから、飯塚は自分の道を切り拓け」 「……武本」 「じゃな、俺こっから潜るから。んで、明日俺はお前のうちに行かないからな。家でお粥でも食って掃除にいそしむ」  そう言い残して武本は階段を降りて行った。 「武本……男前すぎるだろ……くそっ」  ふいに視界が曇り出し、涙がでそうになっていることに気が付いて空を見上げる。  アイツが何とかするといったら、絶対に何とかするに決まっている。村崎にもきちんと話をしなければならない。  俺は俺のやれることをやって、その時がきたら……武本を迎えに行く。    俺の足元に存在していた氷は割れて砕け散った。
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