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「よし兄?どうしたの?」
向かいに座る理さんが嬉しそうに電話を握っている。へえ。飯塚さん以外の人間にもこんな顔するんだ。
「ああ?お粥なんか誰でも作れるよね?うう、まあそうだけど。薬飲まないんでしょ?ああ、わかる。ああ、でも……。よし兄マスターしてないの?んん……。今外なんで、かけなおすよ」
電話を切った理さんはため息をついた。よし兄って理さんのお兄さん?
「理さん、お兄さんいたんですか」
「あ、悪いな電話でちゃって」
「いえ、いいですけど」
僕たちは土曜のランチを楽しんでいた。このところすっかりコンビニに顔をみせなくなった理さん。フルでいれていた土曜のシフトが無駄になったので、かわりに平日がっつり働いて週末をゆるいシフトに変えた。そうでもしないと、この人に逢えなくなったのだ。
「なんかあったんですか?」
「んん~姉ちゃんがごねてるみたい」
理さんは変わらず穏やかだ。飯塚さんと毎週一緒にいたのに、それがなくなった。それなのに切羽詰った感はまったくなく、余裕すら感じる。
対する飯塚さんは以前より弁当を買って帰るようになったし、いつも眉間にしわが寄っている。でもね~僕がおせっかい焼くようなことじゃないし、理さんがいれば問題ない。飯塚さんは僕のことを知らないから傍観中。
「ごねてる?」
「俺のお粥が食いたいとかなんとか」
理さんはここで説明を始めた。お粥を上手に作れるようになった理由とお姉さんとお義兄のこと。
「じゃあ、帰ったほうがよくないですか?まだ土曜だし、明日帰ってこれるでしょ」
「そうだな……正明」
「なんですか?」
「明日シフトは?」
「入れてないですよ。映画見ようかと思って」
「それ却下……俺と一緒にこい」
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