12撃目 接近

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「俺とアマテラス、あとツクヨミって奴は力を持て余してた者同士、きょうだいのように過ごしてた時期があった。まあ大昔の話だがな。だけどあの二人の性格についていけなくなって、俺はそこから離れたわけだ。俺はあいつらには関わりたくねえ。俺のこれ以上の協力は望まない方がいい」  その言葉に嫌悪感が滲み出ている。彼は本気だ、とルムは思った。彼は本気でアマテラスを嫌悪していると悟った。だからこれ以上の協力を彼に望むのは今はしない方がいいと思った。アマテラスに対抗できる力を持っているのはおそらくテラとサハ以外いないだろう。だから本当なら彼の助太刀が喉から手が出るほど欲しい。  しかし今の不機嫌な彼に協力を無理強いして怒らせて、せっかく味方寄りの中立の立場でいるサハを敵に回すようなことはすべきではない。 「それでも≪魔女≫が俺達人間を助けるってのはどういう了見だい?」  やはり不機嫌さを隠さない声が後方からした。すっかりイルカに戻ったロサがラゲッジルームから後部座席越しに顔を出し、運転席のサハに問う。 「たまたま知り合いが窮地に立たされてたからだよ。助けるのに理由が必要か?」 「生憎俺は≪魔女≫が嫌いでねェ。裏もなく≪魔女≫が人のためになるようなことをするなんて端っから思っちゃない訳よォ」 「ロサ! 助けてくれた人相手に!」 「だっはっは! 別にいい。そんだけ≪魔女≫に恨み辛みがあるんだろ?」  慌ててロサの口を塞ごうとするルムをサハが笑いながら制する。 「≪魔女≫にとって人間なんて取るに足らない存在。アンタにとっちゃ会いたくもない相手の前に姿を現してまで俺達を助ける義理なんてないだろォ?」 「へっ。俺をそこらの≪魔女≫と一緒にすんな。人間のお前ならどうするよ? 友人を助けるだろうよ。それと同じよ」  ロサの八つ当たりのような言い掛かりに、サハは笑いながら返した。気を悪くする様子はない。一方のロサは納得がいかないのかそれっきり無言になってしまった。 「あと聞きたいんだが、サハはどうしてプニに乗ってきた? これが俺達の車だとお前は知らないはずだが」  人の姿に戻り後部座席に座っていたサンダーが尋ねた。確かにそれについてはルムも気になっていたところだ。 「ああ、それなら」  サハは≪光の魔女≫の話をしていたときとは打って変わって和やかに語り出した。 「こいつの生みの親はたぶん俺の顔見知りだ。こういうのを作る『魔法』が得意な奴がいる。そんでこいつから嬢ちゃん達の残り香がしたからな。こいつに乗って突っ込んだ方が、お前らの救助が成功する確率が上がるって思った訳よ。俺は人間を装ってるからな、あんだけ人間のいる前で盛大に魔法を使ってお前達を救助はできないんだ」 「『魔法』ってことは……やっぱり≪魔女≫なんですね。プニを作ったのは」 「ああ、≪製鉄の魔女≫を名乗ってる奴がそうなはずだ。ただあんまり人前に出たがらない奴だから今どこで何してるかサッパリわかんねえが、会って損はないと思うぜ」  今度は聞いたことのない≪魔女≫の名前が出てきた。サハの様子がご機嫌にも見えるので、その≪魔女≫はサハとは友好的なのだろう。だからこそルムの中に疑念が湧く。 「貴方……≪魔女≫は群れないとか言いながらめちゃくちゃ他の≪魔女≫に詳しいじゃないですか。どういうことですか?」 「≪魔女≫にだって多少の交友関係はあるってもんよ。ただ誰かの下に集い統率されるってのは≪魔女≫としちゃおかしいってこった」  さらにサハは≪魔女≫について少しばかり教えてくれた。≪炎の魔女≫はカグヅチ、≪水の魔女≫はアキツヒメ、≪雷の魔女≫はワカイカヅチという名前があるということだ。 ***  その後もサハは同行し、国境を越えるのにド派手な魔法を使い、ルム達はバイセンヘクセブルクを出ることに成功した。そこからは追っ手が捜索不能になるくらいに素早く国境から離れた。  平原を駆け抜けるプニに乗っているルムは大きな溜息を一つ吐いた。 「これは入国許可を取ってくれたヨモギ姫達にも迷惑を掛けるかもしれませんね……」  溜息を吐くほどの心配事は、自分達に協力してくれた小国の王家の人々についてだった。 「彼女達には知らぬ存ぜぬを通してもらうしかないだろう。『そんな企みをしているなんて露ほどにも知りませんでした』とか、何なら『良くできた偽造手形です』とかしらばっくれてもらうか」  などと会話していると突然プニが平原のど真ん中で停車した。次の瞬間には運転席にいたサハが扉を開け、ひょいっとプニから飛び降りた。 「どうしたんですか?」
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