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外見にしろ何にしろ、春樹のことを褒められると、他の何を褒められるより嬉しかった。
離れていればいるほど、愛おしさを痛感する。
『見舞いにはあまり来なくていい』という旨の手紙を受け取ったにもかかわらず、春樹はこの5日間毎日病院に顔を出してくれた。
困った事に美沙は、自分でも情けないほど、そのことが嬉しかった。やはり自分に嘘をつくのは難しい。
最初の日はベッドの上の美沙を見ながらあまりに心配そうな顔をするので、『絶食と点滴と投薬だけでちゃんと治るから』と、懇々と説明してやらねばならなかった。
次の日もその次の日も、顔を出してはくれたが、食べ物の差し入れも出来ず、他の患者の手前仕事の話も出来ず、春樹はいつもほんの半時間でソワソワし始める。
そして結局最後はぎこちなく「お大事にね。また来ます」と、それだけぽそりと言って、帰って行くのだ。
ねえ、もう少し居てよ。何も話さなくていいから。
喉まで出かかった情けない言葉を飲み込んで、美沙はいつも自嘲する。
少年に触れられず、苦しいとき助けることも出来ず、誤解を与えて傷つけるだけならばいっそ、手放す方がいい。いつか離れなければならないならば、お互いにとって早いほうがいい。
そう、答えは出ているのに、いつもそれを先送りにする。
まだいい。もう少しこのままで、と。
―――春樹、明日も見舞いに来てくれるかな。
今まで仕事で飽きるほど毎日顔を合わせて来たというのに、少しでも離れたらこれだ。
自分のこらえ性の無さに心底呆れ、美沙は苦い笑みを浮かべた。
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