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その無二の親友にも、それなりに欠点はある。
探偵業が気に入らず、事あるごとに「そんな仕事やめて、進学しろよ」と春樹に無理強いするくせに、興味だけはあるようで、やたらと仕事の話を聞きたがる。
酒でぼんやりしていたこともあり、つい口を滑らせてしまった本日の依頼の話に、隆也は喜々として飛びついてきたのだった、
「内容なんて言えるわけないじゃないか。依頼人のプライバシーだ」
「いいじゃん、絶対秘密にするからさ。どうせ春樹一人じゃ調査出来ないし、本社に回すんだろ?」
「いや……僕一人でやってみようと思うんだ」
「マジで? 美沙さん、承知か?」
「美沙にはあとでちゃんと説明する。今は心配掛けるといけないから、内緒で進めるけど。それに……依頼人が、そうしてくれって言ったんだ」
「依頼人が?」
「うん。出来れば僕個人に依頼したいって」
「え! それって……」
隆也は小さなテーブルに更に身を乗り出し、目を輝かせた。
「事務所通さない、直の仕事? マージン丸儲け?」
「嫌らしい言い方するなよ。一応事務所を通す形で契約書を書いて貰ったし。ただ、気持ちの問題だよ。依頼人にそう言われたら、僕がしてあげなきゃって思うし、何かミスした時は、僕個人が責任をとればいいし」
「もうひとついいことがあるぞ」
隆也はニヤリとして春樹の目を覗き込んだ。
「俺が手伝ってやれる」
「はあ?」
春樹は冗談じゃないとばかりに、おもいきり渋い顔をしてみせ、「もう帰れ、酔っぱらい!」と、隆也のジャケットをその頭にパサリと被せた。
◇
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