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欲しい花が無かったのだろうか。もう少しあの瑞々しい横顔を眺めていたかったのだが。
そんなバカらしいことを柄にもなく思いつつ、女は少年が消えていったビルを見上げた。
5階建ての古いテナントビル。外壁に設置された看板には、様々な会社名に混じって探偵事務所の名もあった。
そんな日陰的存在の事務所が、近頃はあっけらかんとこんな所に看板を上げているのかと、女は少しばかり驚いた。
ポカンと無心にそのビルを見上げている女の前を、若いカップルが、嫌なものでも見るように一瞥して通り過ぎてゆく。
咄嗟に二人に鋭い視線を投げつけて見たものの、女は再び物憂げな目つきに戻り、空き缶もタバコの吸い殻もそのままに、のっそりとベンチから立ち上がった。
◇
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