第1章

2/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
さて、今回は浮が無事に井戸に流れ着いたからめでたしめでだしとはいかない問題だった。 「本当に田んぼと繋がっていたなんて」  桜太は井戸の底に浮いたカラフルな浮を見て、呆然と呟いていた。 「ああ。これは由々しき問題だよ」  井戸を作った林田も問題の重大性に顔を青ざめていた。これは井戸を作って誤魔化していい穴ではなかったのだ。下に水の流れが存在し、しかも浮がこの場から流れていかないことから終点になっている。いつ大崩壊を起こしてもおかしくない。 「本当に、今までよく崩落しなかったわよね。この下にはずっと水が流入し続けていたっていうのに」  千晴が呆れて呟いた言葉により、全員が一斉に退避していた。これは図書室の本棚以上に崩れる危険がある。本当にこの学校の危機意識は大丈夫だろうか。その図書室では逃げなかった千晴だが、今回は危険と悟って下がっていた。 「地下に水の流れがあるっていうだけでは崩れないよ。それだと富士山なんて今頃存在しない」  一度は退避したものの、地学のプロとしての意地を見せたのは松崎だ。地下に水が流れているだけで崩れていては、今頃日本はあっちこっちで地盤沈下を起こしている。地震で起きる液状化よりも酷いだろう。 「そうですよね。そもそも田んぼと用水路が連動しているということは、水がない時間のほうが多いわけです。どうして穴が開いたのか。これを問題にすべきでしょう」  楓翔も気を取り直して井戸地近づく。まさにその指摘のとおりで、この井戸は田んぼの横にある用水路の水であり、しかも田んぼに水を引き込む時以外には使用されていないものだった。つまり年中流れがあるのではなく、田んぼに水が張ってある4カ月ほどが問題になるのだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!