第1章

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「この穴が出来た当時と今って、何か変化がありますか?」  桜太は林田から状況を詳しく聞くことにした。これはどうやら地質的な問題だけではない。 「ううん。穴が出現したのは夏だったな。生徒がいなかったことから、悪戯の可能性がすぐに消えたんだった。たぶん、水の動きがその付近で起こっていたからだな。これは今までの検証と矛盾がない。どれ」  林田は何か変化があるだろうかと井戸の中に頭を突っ込んだ。もさもさの天然パーマのせいで、その様は試験管にブラシを突っ込んだような感じである。大きな穴だが、林田が頭で掃除しているように見えてしまった。 「あれっ?底にあった石が動いているよ」  そんな失礼な感想を科学部一同が抱いているとも知らずに、林田が頭を突っ込んだまま言った。おかげで声がくぐもっている。 「はい?」  聞き取れたものの、意味が解らない一同は首を捻った。その息はぴったりである。こういう場面だけ結束力が強まるのだ。 「この下、底に石があるんだけどさ。前は穴の大部分を塞ぐようにあったんだ。それが僅かだが動いている。これが水位が上がる原因だと思うよ」  林田は試験管ブラシと化している頭を抜いた。抜けた瞬間にぼあっともさもさの天然パーマが広がって揺れる。 「石が動いている。それは当然、大きなものですよね?」  石にすかさず反応するのは松崎だ。鉱石を愛しているだけあって、石という単語は聞き逃せない。 「ええ。動いたおかげで大きさが解りますが、井戸の直系より少し小ぶりという感じですよ」  井戸の上に覆い被さって林田は腕で大きさを表現する。 「ということは、水が流れているだけでなく石を押し流しているんですね。ひょっとしてこの井戸も、石が動いた結果ということですよね?」  予想外の石問題に、迅が信じられないといった声を上げた。これは前代未聞の地盤沈下である。
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