第1章

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「小さい流れとはいえ、吸い込むのがすぐに解ったほどだ。威力は強いかもしれない」  そう指摘したのは莉音だ。桜太と同じく地質以外の原因があると察知したのだ。これはただの地盤沈下ではなく力が関係している。 「つまり水圧ですね」  そうにんまりと笑ったのは、フィールドワークは嫌だと文句を言っていた優我である。これはもう力学の問題だ。ということは物理で解決できる。 「水が横に流れたせいで土壌が緩み、石が動いた。それで一番弱っていたここが落ちたっていうことか」  楓翔も物理的に考えることに賛同した。井戸がただの地盤沈下ではない以上、水圧を問題にすることに異論はない。 「物理か」  桜太も自分の出番が回ってきたかと笑ってしまう。部長なのに推理を聞くだけというのは悲しいのだ。 「問題は石を押せるほどの力があるかだな。水圧だけではなく気体による圧力も考慮しなければならないかな」  莉音が新たな指摘をする。 「ふむふむ。そうなるとモデル化は可能かもしれないね」  林田もにんまりと笑う。どうにも林田の興味は化学だけに収まらないらしい。そんな林田を、松崎は見直したようであった。鉱石を褒められて以来の笑顔を見せている。これは本当に恋が始まったのだろうか。 「計算だ」  数字中毒の迅が喜んだ。迅の本音も優我と大して変わりがなかったとはっきりしてしまう。 「ううん。これが科学部の解決法か」  ちょっと憧れの番組とは違う展開に悩む亜塔だが、科学部らしいと納得できるものだった。  さて、化学教室に戻ると早速黒板には簡単な図が林田によって描かれていた。林田によるモデル化であった。 「こういうことだな。よくある気体の問題に使われるピストンだ。これが流体で起こっている」  林田の簡潔な問題設定に、全員が頷いた。気体と液体と考えると面倒だが、ピストンの運動があると思えば簡単である。
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