第1章

7/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「それに吸い込むことが解るくらいだから、田んぼから井戸に向けては傾斜があるんだよ。地面は真っ直ぐだけどね」  優我がさらに圧力が上がる可能性を挙げる。 「傾斜」  何だか図書室の問題を思い出す言葉だ。桜太はこの学校はあちこちに傾斜があるのかと怖くなる。まあ、経営は傾いていないようなのでいいかとも思う。生徒数も多いし、一応はこの辺りでは進学校と言われている。 「流れ込む水の量の大きさもポイントだろう。田んぼから井戸までの距離は400メートルくらい。井戸に流れ込む水の流入口を簡単化して15センチ四方とすると、一回で流れ込む水の量は9立方メートル。要するにあの水路には90リットルの水が入れる。よく売られている水のペットボトルが2リットル入りであることを考えると、45本分。その重さが石に掛かったと思えば動いても不思議ではない」  林田が惚れた理由の解る淀みない説明を莉音がした。大学で理論物理をやろうと考えているだけあって、数字を用いた説明もお手の物だ。 「ううむ。やはり父上と呼ぶ日は近いか」  桜太は思わずそんなことを思ってしまう。菜々絵がこういう理論的な思考の出来る学生を見逃すはずがない。それだけでなく告白までされたのだ。もう特別な感情を持っているのではと疑ってしまうところだ。アメリカで自分の研究に奮闘している父上には悪いが、離婚の危機は迫っているだろう。 「おおい。学園長がすぐに対策を取ってくれるってさ」  そこに林田と松崎が戻ってきた。何と二人は行った時と同じく手を繋いでいる。 「よっ、ご両人」  酔っ払いのような声を掛けるのは亜塔だ。これには林田と松崎は顔が真っ赤になる。 「理系の春の訪れは予測不能だな」  芳樹はそんなことを言っている。いつもは亜塔の暴走を止めるというのに、この場では止める気なしだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!