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「それに吸い込むことが解るくらいだから、田んぼから井戸に向けては傾斜があるんだよ。地面は真っ直ぐだけどね」
優我がさらに圧力が上がる可能性を挙げる。
「傾斜」
何だか図書室の問題を思い出す言葉だ。桜太はこの学校はあちこちに傾斜があるのかと怖くなる。まあ、経営は傾いていないようなのでいいかとも思う。生徒数も多いし、一応はこの辺りでは進学校と言われている。
「流れ込む水の量の大きさもポイントだろう。田んぼから井戸までの距離は400メートルくらい。井戸に流れ込む水の流入口を簡単化して15センチ四方とすると、一回で流れ込む水の量は9立方メートル。要するにあの水路には90リットルの水が入れる。よく売られている水のペットボトルが2リットル入りであることを考えると、45本分。その重さが石に掛かったと思えば動いても不思議ではない」
林田が惚れた理由の解る淀みない説明を莉音がした。大学で理論物理をやろうと考えているだけあって、数字を用いた説明もお手の物だ。
「ううむ。やはり父上と呼ぶ日は近いか」
桜太は思わずそんなことを思ってしまう。菜々絵がこういう理論的な思考の出来る学生を見逃すはずがない。それだけでなく告白までされたのだ。もう特別な感情を持っているのではと疑ってしまうところだ。アメリカで自分の研究に奮闘している父上には悪いが、離婚の危機は迫っているだろう。
「おおい。学園長がすぐに対策を取ってくれるってさ」
そこに林田と松崎が戻ってきた。何と二人は行った時と同じく手を繋いでいる。
「よっ、ご両人」
酔っ払いのような声を掛けるのは亜塔だ。これには林田と松崎は顔が真っ赤になる。
「理系の春の訪れは予測不能だな」
芳樹はそんなことを言っている。いつもは亜塔の暴走を止めるというのに、この場では止める気なしだ。
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