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「ただいまー」
「あら、お帰りなさい」
「お帰り。お風呂を沸かしてあるから入ってきなさい」
夜遅く帰ってきた娘はすぐに荷物を母に渡すと、軽やかにステップを踏みながら浴室へと姿を消した。
夫婦が見たその姿は、まさしく年相応の未熟な少女。
二人の望む無邪気で理想的な子供に成長しているのに、彼らが浮かべる笑みは張り付けられたものでしかなかった。
「ねえ、あなた。今のユウキの顔……」
「村長のところで成長してきたんだろうな」
向かい合って座る夫婦は、持って帰ってきた荷袋が日に日に破けていく様をずっと見ていた。
荷袋が壊れれば壊れるほどに、二人の心も奥底から傷ついていく。
沈黙を破ったのは男の方だった。
「ユウキ。綺麗になったな」
女は思わず目を見開いて男を見た。
その口からは自然と言葉を紡いでいた。
「……文献によれば、歴代の勇者は誰も彼もが美男美女揃いだったそうね」
「いいや、もし勇者じゃなくてもユウキはこの村一番の美人になっていたはずだよ」
「若い頃の私みたいに?」
「若い頃の君みたいに」
夫からの言葉に妻は不満気な表情をする。
男は頬杖をついて笑った。
「はー、いいお湯だったー」
浴室からユウキが戻ってくる。
母はまだ湯気の残る体のユウキを抱き寄せ、膝の上に乗せた。
「お母さん?」
頭に乗せられたタオルで濡れた髪を優しく包み込む。
そして、湿り気の残る髪を左右に分けると開けた額に唇を落とした。
「愛しているわ、ユウキ」
それに重ねるように、母と娘を父が抱き寄せて娘の額にキスをする。
「私も、愛している」
「わたしも!わたしもお父さんとお母さんのこと、いっっっぱい!」
満面の笑みを浮かべ、少女は言う。
「愛してるよ!!」
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