序章 ようこそ、始まりの世界へ!

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(天啓に打たれたのが身籠った私だけでないなら……) 夫婦が目にしたのは、両手ではとても数え切れないほどの燈火だった。 その先頭には顔に火傷痕の残る隻腕の老人が松明を片手に、開くことの出来る右目で二人をじっと見据えていた。 「村長……」 「村の者全員が神の声を聞いた……やることはわかっているな」 村長と呼ばれた男の隣に立つ女性が前に出る。 差し出された両手の上にはページも幾らか焼け、ボロボロになって表紙もなくなった一冊の本が置かれていた。 人々はそれを《勇者譚》と呼ぶ。いかなる地域に住む人類も一度は目にする書物だ。 「ここに書かれていることは、当然知っているな」 夫婦は口を開くことなく、ただ顔を下げた。 老人は居た堪れなくなる気持ちを押さえつけ、現実を突きつける。 「これから産まれる私たちの子供が、勇者譚に描かれた勇者のように世界を救うんですよね」 「これ……そうだ」 だが、発した声は他でもない母親となる者の声によって遮られた。 二人の方が現実も未来も誰より自覚していた。 天啓を聞いたとき、村人全員を目にした時から親としての覚悟は自明の理だったのだ。 夫が手を取り肩を抱き、妻は寄り添い命に手を添えた。 そして、僅かに潤んだ目で女性は言った。 「この子は、私たちが責任をもって産んで見せます」 「だって、《勇者》と一番に戦うのはいつだって母親ですから」 ==========
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