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《ユウキ=フリード》
誰よりも勇ましき《人類》である彼女は、その名に『勇気』を冠した。
「今日もお友達と遊んでたの?」
母の問いかけにユウキは顔を上げると、答えの代わりにとはにかんだ。
親子二人、手を繋いだまま家まで帰ると玄関の前に荷物を持ったユウキの父親が立っていた。
ユウキはその荷物を受け取ると、再び扉の方へ振り返った。
「いつも通り、書物とお弁当を入れておいたから」
そっと荷物を愛娘に手渡した父親は優しい声を掛けようと努めたが、やはり声は震えていた。
幾度となく繰り返された光景で、子供が生まれる前から覚悟はできていたはずなのにと彼は自らを恥じた。
今日も娘は夜闇の中を強くなって帰ってくるだろう。
大切に育てた自分たちの子供が親を置いて離れて行ってしまうことは、妻であった女性が母親になる決意を決めたときから理解はしていた。
けれど、その時は二人の想像を遥かに超える速度で訪れようとしていた。
残されようと決して涙は流さなかった。
ただ、寄り添い運命に身を委ねる。
彼らは考えることを既に放棄していたのだ。
そうすれば、余計な思考をしなければ自分が傷つくこともない。
だからと言って我が子に愛を注ぐことを躊躇いはしなかった。
あれほど村人の前で大口を叩いて置きながら、心の底ではこうなることを誰よりも望んでいなかったことに今更気付かされてしまった。
不意に隣へ目を向けると二人の視線が交錯する。
それだけで互いに何を考えているのか解ってしまった。
今も、少女は夕暮れの道で頬を染めながら走っている事だろう。
――親の心子知らず。
果たして、本当に伝えられなかったのはどちらなのか……。
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