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「あの頃は、大変だったからね」 クミが寝たきりの植物状態になったのは、大学卒業少し手前の頃だった。陸橋から落ちたという知らせが入ったのは、彼女がもう脳死判定が出たあとだった。事故か故意かも分からぬまま。 私はサクを支えることで精一杯で、キオのことまで考えられなかった。 「今でもたまに思うんだよな、キオのことは誰が見ていたんだろうって」 日を追うごとにやつれていったキオに、私たちは気付いてあげられなかったから。 「キオと連絡取ってる?」 「いや、もう五年以上は取ってない。あれからキオ、会っても全然喋らなくなったから。実際どうしてたのか、どうしてるのかも知らないんだ」 「そっか、あたしもそんな感じ」 私たちは、あれからばらばらになっていたのだ。 クミのことが好きだった二人を思うと、当時、キオと会ったときの様子もサクには言えなかった。二人は方向性こそ違ったが、同じような思いを抱えていたのだから。 「けど、もうあれから10年以上経ってるからさ、久々に会ういい機会だと思うんだよな」 「そうだよね」 お互い、それ以上言葉を続けられなくなってしまった。まだ昔を懐かしんで話せるほどには、消化できていないのかもしれない。サクが元気を取り戻して、気になる人ができたことに気付いた辺りから、私も想いを断ち切るように細やかな恋をした。きっと、サクへの想いは残るけれど、踏み出すために。そうして前に進んだことが良かったのかも、私たちには分からない。 キオのその後を知らず、ただ彼の実家に結婚式の招待状を出すことだけを、サクは決めているようだった。キオがそれに出席をするのかどうか、期待と心配の思いで私は当日を迎えることにした。
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