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キオの唐突な言葉は、それが何を意図するものなのか全く理解ができなかった。こちらの問い掛けたものに対する答えには思えなくて、私は一瞬、固まった。 「ずっと2人には言えずにいたんだけど、彼女が入院する前にもう、婚約していたんだよね」 理解のできない言葉が、紡がれていく。 「まだ夢を見ているような状態だったけど、二人で婚姻届けを書いたことがあって。本当は、卒業して仕事が落ち着いたらって話してたんだ。ご両親とも何度もちゃんとお話をさせてもらって、正式に籍を入れたんだよ。ほら、記入に不備がなければ、受理はしてもらえるから」 「嘘…でしょ…」 あまりに想像を絶する内容で、どこから聞けばいいのかも、なんて声を掛けたらいいのかも分からなかった。 「彼女も、まだちゃんと生きてるよ。まだ眠り続けてるけど」 そう言うキオの笑顔が、彼の中ではもうすべて消化されていることを物語る。私たちが進んでいると思っていた一歩よりも、ずっと先にいるようだった。遠い遠い、私たちでは辿り着けないような遥か彼方に。 「木尾 久未、それが今の彼女の名前だよ」 目の前で清々しい顔で話す彼を、猟奇的にも思えるその言葉を、何度も頭の中で反芻していた。クミの想いは、あの頃から止まっているのだろうから、これはきっと二人の願いの先だったのかもしれない。そう思うのに、私が…サクが、受け入れて祝福できる日が来るのはいつなんだろう、とそればかりに思考がいって、私はただただ立ち尽くしていた。 あまりに不釣り合いなほどに、外では晴れ渡る青空が見えていた。サクのこれからを祝福しているのか、キオとクミのこれからへのものなのか。私には今は何も分からなかった。
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