1101人が本棚に入れています
本棚に追加
霧が晴れて道が見えるようになる。
けれど、脚の力が抜けてカクンと膝が折れた。その場にうずくまる。
さっきの霧に映った映像はミカの記憶だった。
ずっとずっと忘れていた。嫌な記憶と一緒に閉じ込めていた。
全部。全部、思い出した。
どうして、忘れていたのだろう……。
私はちゃんと愛されていたのに…。
名前のとおり【愛情】を注いでもらっていたのに…。
お母さんは、ずっと言ってくれていたじゃない……。
『あんたが私を憎んでいても恨んでいてもいい。
あんたがちゃんと一人でやっていけるように、立派な人間に育つことが母さんの望みよ』
『ミカならやれる。母さんはそう信じてる』
『何があっても、母さんはあなた達をずっと愛してる』
『ミカ、世界で一番大好きよ』
たくさんの優しさと温もりと愛情を、与えてくれていたのに……。
お母さんだけじゃない。
こぼれ落とした記憶が蘇ってくる。
会いたいと願い続けた懐かしい人。
第一印象が最悪だった人。
羨ましいと憧れた人。
しつこくチームに勧誘してきた奴。
護ると約束してくれた優しい背中。
───私を暗闇から救ってくれた大好きな人。
私の周りには、こんなにも支えてくれる人達がいる。
泣いてる場合なんかじゃない。
流れる涙を拭って、立ち上がった。
帰ろう。
聡美のいるところに。龍のいるところに。聖のいるところに。琥珀のいるところに。香登のいるところに。ユウマのいるところに。───アキラがいるところに。
大切で、
大好きな、
あの人達がいる世界に────。
最初のコメントを投稿しよう!