第32話 眠る少女

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霧が晴れて道が見えるようになる。 けれど、脚の力が抜けてカクンと膝が折れた。その場にうずくまる。 さっきの霧に映った映像はミカの記憶だった。 ずっとずっと忘れていた。嫌な記憶と一緒に閉じ込めていた。 全部。全部、思い出した。 どうして、忘れていたのだろう……。 私はちゃんと愛されていたのに…。 名前のとおり【愛情】を注いでもらっていたのに…。 お母さんは、ずっと言ってくれていたじゃない……。 『あんたが私を憎んでいても恨んでいてもいい。 あんたがちゃんと一人でやっていけるように、立派な人間に育つことが母さんの望みよ』 『ミカならやれる。母さんはそう信じてる』 『何があっても、母さんはあなた達をずっと愛してる』 『ミカ、世界で一番大好きよ』 たくさんの優しさと温もりと愛情を、与えてくれていたのに……。 お母さんだけじゃない。 こぼれ落とした記憶が蘇ってくる。 会いたいと願い続けた懐かしい人。 第一印象が最悪だった人。 羨ましいと憧れた人。 しつこくチームに勧誘してきた奴。 護ると約束してくれた優しい背中。 ───私を暗闇から救ってくれた大好きな人。 私の周りには、こんなにも支えてくれる人達がいる。 泣いてる場合なんかじゃない。 流れる涙を拭って、立ち上がった。 帰ろう。 聡美のいるところに。龍のいるところに。聖のいるところに。琥珀のいるところに。香登のいるところに。ユウマのいるところに。───アキラがいるところに。 大切で、 大好きな、 あの人達がいる世界に────。
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