大嫌いなのに、どうしてキスするの?

16/16
前へ
/340ページ
次へ
保坂君はそれ以上なにも話すことなく、足早に自分の家に向かっていく。 「……保坂……君?」 私の声は雨の音でかき消されてしまい、彼に届いてくれない。 あっという間に保坂君は玄関の鍵を開け、家の中に入ってしまった。 ドアを乱暴に閉めた音だけが虚しく響き渡る。 「どう、して……?」 声が震えてしまう。 どうして保坂君は私にキスをしたの? 大嫌いって言いながら、勘違いしてしまいそうな優しいキスを何度も何度も――。 唇に触れてしまう指。 胸が苦しくて、締め付けられる。 「分からないよっ……保坂君っ」 大嫌いならどうしてキスしたの? 大粒の雨が降りしきる中、しばらくの間動くことができなかった。
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2109人が本棚に入れています
本棚に追加