2109人が本棚に入れています
本棚に追加
保坂君はそれ以上なにも話すことなく、足早に自分の家に向かっていく。
「……保坂……君?」
私の声は雨の音でかき消されてしまい、彼に届いてくれない。
あっという間に保坂君は玄関の鍵を開け、家の中に入ってしまった。
ドアを乱暴に閉めた音だけが虚しく響き渡る。
「どう、して……?」
声が震えてしまう。
どうして保坂君は私にキスをしたの?
大嫌いって言いながら、勘違いしてしまいそうな優しいキスを何度も何度も――。
唇に触れてしまう指。
胸が苦しくて、締め付けられる。
「分からないよっ……保坂君っ」
大嫌いならどうしてキスしたの?
大粒の雨が降りしきる中、しばらくの間動くことができなかった。
最初のコメントを投稿しよう!