雷雨の夜を

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「ハァハァ・・・ 上手く、まけたかしら・・・ アイツらに見つけられたら・・・ 確実に始末されるでしょうね・・・」 女は走っている最中に偶然見つけた、建設途中で放棄された廃ビルに忍び込んで、身を隠していた。 どうやら女は何者かに追われて逃げているらしい。 しかも、それが命懸けであるならば、氷雨に打たれることもいとわなかった、異常な行動も合点がいく。 女が隠れてから十分が過ぎた。 廃ビル内に人の気配はもちろん無い。 しかしネズミや虫がはいまわる音や、窓枠のない開口から吹き込む風の音が時折鳴っては、女をヒヤリとさせた。 痺れるほどの緊張の中で感じる時の流れは、当たり前に過ごす日常の数倍に相当しているだろう。 「ふう」と一息吐いて、女はズルズルと壁に背中を擦りながら、腰を降ろした。
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