1.嘘でも心を救うなら、きっと許される

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「どうしたの?」とだけ、口にして、 「また、なんかあったの?」は飲み込んだ。 この前は、「非常食用に隠しておいた缶詰の並び方が変わっていた。」、だった。 よく知られているパターンで、被害妄想的に「誰かが盗った。」というならまだわかる。 うちの場合はさらにひどい。 「私がぼけていないか試そうとして、動かしたのがわかるかどうか誰かが動かしたに違いない。」と言うのだ。 そんなことを試すほど、ヒマな人間なんていないだろうに。 そんなことで、ぼけているかどうか、わかるわけもないだろう。 そのまた前は、「注文していないビーフシチューの缶が届いた。」だった。 たしかに年がいくつになっても、少々こってりしたものでも、たまには無性に欲しくなるだろう。 そんな気分の時に、注文してしまったのかもしれない。 そして、それを悲しいことに忘れたのかもしれない。 たとえそうでも、1000万も缶を注文したわけでもなく、たかだか10缶位、気にすることはないのだ。 だけど、完璧主義の祖母は、自分がわからないことはいやなのだろう。 ぼけてても、その事実がわかるのがいやなのだ。 結局その時は、「誰かが勝手に注文した。」と言い張ったのだが、 注文書の文字が祖母の筆跡だったため、 満ちるがやんわりと、 「わぁ、みんなのために頼んでおいてくれたのね。」と1オクターブ高めの声で、方向を希望的な方面にそらし、事なきを得たのだった。 【嘘でも人を幸せにするなら、OK。誰かを不幸にするなら、真実は本当の真実でない。】
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