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「わかりました。今から伺います」
食器を片付けた後、誰かと連絡を取っていた蓮登がそう言って電話を切ると、疲れが抜けきれずソファにぐったりと座ってた奏に声を掛けた。
「ちょっと出かけてくるね」
「だったら、合鍵頂戴。
離職票が届いてないか、見に行きたいの」
蓮登はあからさまにムッとした。
「また、他の男にあんなことされたいの?」
「そんなわけないでしょ」
「だったら、ここに居なさい。
昨日の今日で、届くはずない。ついでに、郵便物は全てこちらに転送されるように手配してくるよ。
だいたい、身体痛いんじゃないの? ゆっくり休んでおいたら。
こんなことなら容赦なく追い詰めて、今日は足腰立たないくらいにしてあげればよかったかな――次からそうしよう。
どうしても出て行くって言うなら、見えるところにキスマークつけるけど」
言いながら、にこりともせずに首筋に唇を近づけてくるので奏は慌てて立ち上がる。
「い、いい。
大丈夫。ここに居るから。
ちゃんと留守番している」
「本当に、ここで留守番してるんだよ?
奏。鎖に繋がれて生活したくないよね?」
――婚約者を鎖で繋ぐっていうの?
まったく悪びれた風もなく、甘いトーンで紡がれる非日常的な発言にくらくらと眩暈がしたけれど、これ以上会話を重ねてもこちらが不利になる材料ばかり出てくる気がして慌てて首を横に振る。
充分な距離を保ったまま。
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