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直後、杏莉から電話がかかってきた。
「奏、電話、大丈夫?」
相変わらず、元気で張りのある声。
ショートカットの良く似合う、美人な杏莉の顔が脳裏に浮かんだ。
「いいよー。杏莉、今日は休みなの?」
客室乗務員の杏莉は、全国を忙しく飛び回っている。
「そうだよ。福岡だけどね。
ね、明日の午後から東京なんだけど、あえない?」
「会いたいー……けど」
「どうした? もちろん、仕事なら夜になってからで全然大丈夫だし」
「……うん、わかった。
許可得られるように頑張ってみる」
蓮登さんは、杏莉のことなんて知らないよね。
大学時代からの女友達とも逢うな、なんて言うかしら。
「……許可って? 残業の予定だった?」
「そうじゃないの……。会社昨日潰れちゃったから、仕事はないんだけどね――」
「え? 今さらっとなんて言った?」
「いや、えっと」
「とにかく、いいよね? 時間と場所はまたラインするから」
「駄目なの――。
杏莉、覚えてるでしょ? 私が何度か話したことのある初恋の相手のこと」
彼氏はいないのか、作らないのか、作ったほうが良いよ、楽しいよ、奏可愛いのにもったいない、奏モテるんだよ、知らないの? 青春の無駄遣いだよ、合コンでもセッティングしようか、としつこい友達が何人かいたので、断るために話したことがある。それを杏莉だって耳にしたことはあるはず。
「ああ、告白を華麗にスルーした王子様系美青年、だったっけ?」
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