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「あの、おはようございます」
話を遮るように、ダイニングに顔を覗かせたのは奏だった。
自分のクローゼットから持ち出してきた、紺色のワイドパンツに白のTシャツという、ごく普通の服を身に着けている。
さっきお風呂で体中に散らされたキスマークを見てかなり動揺して文句の一つでも言いたい気持ちだったけれど、来客の手前今はそれも飲み込んでいた。
「あら、お嬢さん、私があれほど忠告したのにすっかりこの詐欺師に騙されちゃって。
お気の毒だわ」
「オーナー、詐欺を働くならもっと上手に振る舞いますし、決してアナタには合わせないように配慮もします。ご心配なく。
奏、お腹が空いたんだろう? ミナさんが沢山買って来てくれたから好きなもの食べて」
そうでなければ、来客中にこんなところに顔を出さないのはわかりきっていた。
「うん……。
ミナさん、ありがとうございます。頂きます。
蓮登さん、私、他の部屋に持って行って食べてもいいよ?」
奏はミナと蓮登の顔を見比べながら言う。
蓮登は、奏にフルーツ缶とバナナと青菜、そして牛乳で作ったスムージータイプのミックスジュースを差し出す。それから、チキンサンドとサラダを。
「絶対に途中でこぼすと思うから、ここで食べて」
「――こぼすなんてこと、ないと思うけど……」
ムッとしながらも席についてサンドイッチに噛みついた。
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