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「転倒する!」という思考が浮かぶ前に、とっさに体が動き、バランスを立て直したその時、Nさんの横を轟音を響かせながら大型トラックが通り過ぎていった。
あのままカーブに突っ込んでいたら、山影からやってきていた対向車に気が付かず、ブレーキをかける間もなく正面から衝突していたかもしれない。
Nさんは色んな意味でゾッとし、そこからは慎重に運転して自宅へと帰り着いたそうだ。
「あの手はきっと自分の守護霊で、『危ない、事故るぞ』と教えてくれたに違いない」
そのようにNさんは考えているという。
「この間ね、実家に行く用事があって、久しぶりに出掛けたの。たまたま兄貴も来てて、珍しく皆が実家に揃ったのよ」
リビングでテレビを観ながら寛いでいると、廊下を挟んだ隣の部屋に行っていたNさんが不思議そうな顔をして入ってきたという。
そしておもむろに、その場にいる人間の数を数え始めた。
部屋の中にいるのは友人とその父、母の3人だけ。
Nさんを含めて4人。
数えるまでもない。
部屋の入口に立ったまま首を傾げているNさんに、友人の母が何事かと声をかけた。
「いや……今、向こうの部屋にいたんだけどさ。皆、ここにいたよな? 向こうの部屋に来たりしてないよな?」
そう言い置いてから、自分がたった今経験した事を話し出した。
Nさんはそこで、探し物をしていたらしい。
確か、押し入れの下に入っていたはずだ。と考え、押し入れの襖を開けた時、そこに積まれた布団の間から人の顔があった言うのだ。
その顔はいきなり襖を開けられた事に驚いたようで、両目を見開いたビックリした表情でNさんを見ていた。
Nさんも、そんな所に顔があるとは思いもよらず、しげしげと見つめ返してしまった。
時間にして数秒。
2人(?)は見つめ合ったまま動けずにいた。
先に視線を逸らしたのは、押し入れの顔だったと言う。
恥ずかしげに目を伏せると、その顔は静かに消えていったそうだ。
Nさんは顔が完全に消えてしまうと、布団の間に手を突っ込み、そこに誰もいないことを確認した。
そしてそっと襖を閉めると、リビングへやってきたのだ。
もちろん、友人を含めて誰もリビングから出ていない。
まさか泥棒か変質者が家の中に入り込んでいるのかと、4人で部屋を移動し、再び押し入れの襖を開けてみた。
だが、そこには積まれた布団があるだけで人影などない。
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