事件

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現場はものものしい雰囲気に包まれていた。 まだ犯人を説得中ということもあって、規制線は 遥か彼方から張り巡らされ、警備は厳重でそこから一歩も近づくことはできなかった。 新聞記者やテレビクルーでごった返す中、やっと 懇意にしているローカル新聞記者に出会えることができた。 「あ、中田さん 現場の状況どうですか?」 いつも平穏無事な話題ばかり追いかけている僕に 中田さんは不思議そうな顔をしながら 「あぁ、良くないね 人質ひとりが大怪我をしている  そうなんだ。それより、どうして橋本くんがここ  にいるんだい?」 僕は、取材のためじゃないことを説明して、個人的な理由で気になってここに来たと言った。 「そうか、この温泉に誰か知り合いがいる、という  わけでもないんだね?」 と、確認してから概要を話してくれた。 そもそも犯人は、隣街の郵便局に強盗に押し入り 失敗して逃走、成功すると思って予め予約していた この温泉宿に逃げ込んだはいいけど、追っ手が迫っていることを知り、逃げ場を失ったが故の強行手段 「まぁ、迷惑極まりない愚行だよね」 そう言って中田さんはため息をついた。
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