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(う、嘘だろ? コイツの胃袋は奈落の底にでも通じているのか!??)
何故、こんな事になってしまったのだろうか?
今、思えば後悔この上ない。
高校の後輩、田辺美奈保【たなべ・みなほ】が地獄極楽丼と呼ばれる、その店が誇る大盛チャレンジ品を勢い良くかっ込み続ける。
15分以内に食べれたらお代は無料。
1万5千円の賞金あり。
但し食べられなかった時は5千円のお代を支払う事になる訳だが、そんな事は大した問題ではなかった?
何せお代を払うのは、どうせ田辺なのだから。
では何が問題なのかと言えば、それはこの俺、田中幸司【たなか・こうじ】とこの痩せで馬鹿食い娘こと、後輩・田辺美奈保との約束事こそが問題なのである。
コイツとは家が隣近所であり所謂、幼馴染みと言うヤツだった。
なのでコイツが何時も腹へりなのは、昔からの事なので正直、今更と言えるだろう。
そして、そんな現状故に俺は、ついつい馬鹿な一言をコイツに言ってしまったのである。
その一言とは「まぁ、幾らお前が腹へり娘でも名楽亭の地獄極楽丼は喰いきれないだろうな?」と言うものであった。
だが、そんな一言が田辺のプライドを深く傷つけたからなのか、それともその一言がヤツの底なしの胃袋を刺激してしまったのか、田辺は眼をギラつかせながら言う。
「だったらもし私がその地獄なんたら丼を、食べきれたらどうします田中先輩?」
(くっ…!? 何なんだこの餓えた野良犬と対峙したような威圧感は?)
俺は一瞬、田辺の放つ殺気じみた空気に思わず怯んだ。
だが、俺は男であり、コイツの先輩である。
故に俺は引き下がる訳にはいかなかった。
「いやいや喰いきれる訳ねぇだろ。
でももし喰いきれたなら、そうだな…1ヶ月間毎日、食い放題の店に連れていってやるよ?」
つい口にしてしまった一言。
もし万が一、コイツが完食してしまったら俺が今までバイト代の大半が一瞬にして消し飛ぶだろう。
だが、それは万が一にもあり得ない。
そんな安心感から思わず言ってしまった一言。
その言葉を聞いて田辺は幼さの残るロリロリな顔に、野獣の威圧感を宿らせ俺を見据える。
そこに居るのは最早、俺の知る田辺美奈保ではなかった。
そう…言うなればロリ属性の皮を被った餓えた野獣である。
俺はそんな田辺の在りように恐怖し、恥も外聞も投げ捨て断ろうと試みた。
だがしかし時は、既に遅し。
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