逆襲の胃袋

3/5
前へ
/5ページ
次へ
俺はそのまま田辺に引きずられるかのように、名楽亭へと向かう羽目になったのであるが…。 田辺は店内に入るなり地獄極楽丼を、即座に注文した。 そして田辺の前に差し出されたモノ、それは…ちょとしたストーブサイズのどんぶり飯だったのである。 「う…嘘だろ??」 俺は、その迫力に気圧され思わず怯んだ。 当然である。 それは俺の知っている地獄極楽丼の倍の量を有した、邪悪なる丼だったのだから。 故に俺は、こう聞かざる得なかった。 「親父さん、これは前のと違うくない?!」 だが親父さんの答えはこうであった。 「あぁ、少し前に完食されちゃってねぇ…だから、もっとインパクトを加える事にしたんだよ?」 親父さんは、そう言いながら邪悪に笑う。 それは絶対に完食はさせないと言う、意地故の笑みだろうか? だが、そんな揚げ物と煮付けと、ご飯によって誕生した怪物を目の前に、田辺は怯む事なく言った。 「もう食べていいの?」 「OKだ!では、よーいスタート!」 親父さんの号令と共に田辺は、一気に口の中へとご飯掻き込む。 そんな様子を見守りながら俺と名楽亭の店主は、ほくそ笑んだ。 当然だ。 こんな馬鹿げた量の丼など食べきれる筈も無いからである。 何故なら、これは最早、どんぶりの常識に当てはまらない代物なのだから。 多分、これは成人男性10人がかりで漸く完食出来るか出来ないか…そんな、丼であろう。 普通なら、生きると言う行為に、こんなに馬鹿げた量の食事を取る必要性はないのだから。 言うなれば食と言う分野の邪道。 いや…最早これは冒涜であろう。 だから何者も、この苦難に打ち勝てないのは必然。 そして当然である。 何せ、これは単なる嫌がらせとして存在しているのだから…。 が…。 「う…嘘だ!? そんな馬鹿な!??」 店主が青ざめた顔で、不意に言った。 そして俺も言葉にこそ出してはいないが、店主と同様、余りの出来事に正直、驚愕していたのである。 何故なら開始から1分にして、既にあの馬鹿げた量の4分の1程の量を食べ尽くしていたのだから。 (くっ……田辺美奈保の胃袋は化け物か!?) これは明らかに普通ではない。 超一流のフードファイターに、匹敵するであろう食いっぷりだ。 完食は時間の時間の問題である。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加