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俺はそのまま田辺に引きずられるかのように、名楽亭へと向かう羽目になったのであるが…。
田辺は店内に入るなり地獄極楽丼を、即座に注文した。
そして田辺の前に差し出されたモノ、それは…ちょとしたストーブサイズのどんぶり飯だったのである。
「う…嘘だろ??」
俺は、その迫力に気圧され思わず怯んだ。
当然である。
それは俺の知っている地獄極楽丼の倍の量を有した、邪悪なる丼だったのだから。
故に俺は、こう聞かざる得なかった。
「親父さん、これは前のと違うくない?!」
だが親父さんの答えはこうであった。
「あぁ、少し前に完食されちゃってねぇ…だから、もっとインパクトを加える事にしたんだよ?」
親父さんは、そう言いながら邪悪に笑う。
それは絶対に完食はさせないと言う、意地故の笑みだろうか?
だが、そんな揚げ物と煮付けと、ご飯によって誕生した怪物を目の前に、田辺は怯む事なく言った。
「もう食べていいの?」
「OKだ!では、よーいスタート!」
親父さんの号令と共に田辺は、一気に口の中へとご飯掻き込む。
そんな様子を見守りながら俺と名楽亭の店主は、ほくそ笑んだ。
当然だ。
こんな馬鹿げた量の丼など食べきれる筈も無いからである。
何故なら、これは最早、どんぶりの常識に当てはまらない代物なのだから。
多分、これは成人男性10人がかりで漸く完食出来るか出来ないか…そんな、丼であろう。
普通なら、生きると言う行為に、こんなに馬鹿げた量の食事を取る必要性はないのだから。
言うなれば食と言う分野の邪道。
いや…最早これは冒涜であろう。
だから何者も、この苦難に打ち勝てないのは必然。
そして当然である。
何せ、これは単なる嫌がらせとして存在しているのだから…。
が…。
「う…嘘だ!?
そんな馬鹿な!??」
店主が青ざめた顔で、不意に言った。
そして俺も言葉にこそ出してはいないが、店主と同様、余りの出来事に正直、驚愕していたのである。
何故なら開始から1分にして、既にあの馬鹿げた量の4分の1程の量を食べ尽くしていたのだから。
(くっ……田辺美奈保の胃袋は化け物か!?)
これは明らかに普通ではない。
超一流のフードファイターに、匹敵するであろう食いっぷりだ。
完食は時間の時間の問題である。
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